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短編集【庭球】

第62章 Stand up, baby!〔桃城武〕


私がなんとか絞り出した「うそ…全然知らなかった」という言葉を聞いた海堂は、苦虫を噛み潰したような表情をした。


校内ランキング戦があることは、風邪で寝込む前に桃から聞いていた。
「そうなんだ、頑張ってね」と言ったのも覚えている。
桃は地区予選でも都大会でも負けなかったし、格上だと言われていた山吹の千石さんにだって勝っていた。
その試合を見て、青学がこれから勝ち上がっていくために桃は欠かせない存在なのだと思ったのは、きっと私だけではなかったはずだ。

──なのに。

寝込んでいたときも何度かメールのやりとりをしたけれど、そんなそぶりは一切なかった。
もともと桃はメールに対してあまりマメじゃないから、いつもより返信が遅いのも、私の体調を考慮してくれているのだろう、としか思わなかった。

そういえば、今日は予想以上にたくさんの人から、必要以上に心配そうに「大丈夫?」と聞かれた。
私ってこんなに人気者だったっけ、なんて思いながら「もう平気だよ、ありがと」なんて繰り返したのだけれど、そうか、みんな私じゃなくて桃のことを心配していたのか。


ぐるぐるとそんなことを考えていると、ふしゅう、と海堂が不機嫌そうなため息を吐いた。
言いづらかっただろうに、申し訳ないことをしてしまったな、と思った。


「ありがと、教えてくれて」
「別にお前らのためじゃねえ、勘違いすんな」


辞めたいならさっさと辞めちまえって言っとけ、と海堂は続けた。
無断欠席なんかしやがるから部の雰囲気が悪くなる、とも。

「うん、伝えておく」と頷くと、海堂はまたため息を吐きながらラケットバッグを背負って、私に背を向けた。
足早に遠ざかるその背中に、申し訳ついでに問いかける。
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