第61章 真紅の深淵〔財前光〕*
のしかかってくる筋肉質な重さ、それを彩るようにきらめく汗。
底の見えない、快楽の深淵。
達したばかりの身体は糸が切れたようにちっとも制御が効かなくて、呼吸をするのがやっとだ。
繋がっている部分から、泡立った音が聞こえた。
「…濡れすぎ」
光が不意にかすれた声でそう言って、身体を起こした。
打ち込まれる角度が変わって、容赦なく抉られる。
悲鳴じみた嬌声を嬉しそうに受け止めた光は、私のふくらはぎを撫でながら持ち上げて、足先を口元へ運んだ。
赤い爪がぬらぬらと光っているのは、マニキュアを塗ったばかりだからだろうか、それとも光が舐めるからだろうか。
舌の感触がさっきよりも強いのは、私が一度達しているからなのか。
思考の回らない頭に、そんな疑問が浮かんで消える。
舌をちろちろと動かしていた光が、足指をぱくりと口に含む。
熱い口内、ざりりと不規則に動く舌。
唇をゆっくりと上下に揺らすその動きは、私がそそり立った光の雄を可愛がるときのそれとよく似ていた。
ちゅぷ、という水音がやけに耳について、溺れてしまう、と直感的に思った。
溺れる? 何が?
──たぶん、私の理性が。
「そんなええんすか? 腰めっちゃ動いてんで、変態」
「やあっ、だ……はッ」
無意識の動きを指摘されて、いつもなら恥ずかしいと思うところだけれど、今は私を煽るだけだった。
私を見下ろしながら、見せつけるように私の足指を咥える光は、何かに取り憑かれているみたいにセクシーで。
光も私と同じように興奮してくれているのだろうか。
左耳に三つ並んだピアス、その中で赤色だけが妙に鮮烈に、目に飛び込んできた。
光が顔を動かすたびにきらきらと瞬く真紅が、周りから浮き上がったように。
ああ、そういえば赤って興奮作用があるんだったっけ。
生理的な涙でぼやけてきた視界に揺れるその色が、愛おしい。