第61章 真紅の深淵〔財前光〕*
這い回る舌はざらざらとしていて、それでいてねっとりとぬめっていて。
柔らかいのに硬くて、そして熱い。
決して火傷をするような熱さではないのに、私の身体を最も早く溶かしてしまう、絶妙な温度。
光はいつもひんやりしているくせに、どこにこんな熱を隠し持っていたのだろう、ずるい。
そう思った瞬間、くすぐったさと甘さの間に留まっていた感覚という名の針が、一気に甘さの方へと振れた。
じん、と下半身がまた潤ったのがわかった。
「…カーマイン」
「へ…?」
「俺、この色好きなんすわ」
光はそう言って、愛おしそうに真っ赤な爪を舌で撫でた。
二日前、家にいくつか並んだボトルの中からこの色を選んだのは無意識だった。
この色を選んだ私のことも、好き?
ふと浮かんだその問いは、口にはしない。
私の望む甘い答えを、光は絶対に言葉にしてくれないだろうから。
たまには甘やかしてくれてもいいと思うのに。
「あっ、あ、ん…」
足指をゆっくりと撫ぜるように往復していた舌が、ぬるりと指の間に滑り込んできた。
他人に触れられることのないそこは、自分でも驚くほどに、光のもたらす刺激に対して従順で、その刺激を余すことなく受け止める。
そして、光が私の足元にうずくまって真紅の指先に口を寄せている光景も、どうしようもなく劣情を煽った。
与えられるものすべてが無条件に甘美な衝動へと変換されて、私の身体を支配している。
どこかにしがみついていたくて、必死にシーツを掴んだ。