第61章 真紅の深淵〔財前光〕*
脱ぐのを忘れていたことを思い出して、スリッパをそっと脱ぐ。
外に投げ出されたままだった私の脚をベッドに上げてくれた光は、その流れのまま私のジーンズを脱がせにかかった。
くしゃくしゃとたまったそれを足首から抜く、というとき。
光が珍しく、何かに気がついたような声を上げた。
「…あ」
「なに?」
「爪」
「あ、うん」
新年度の身体測定も終わって、しばらく学校で素足になる機会はないからと、二日前に塗ったばかりのペディキュア。
今年は冬が長かっただけに、日を追って暖かくなるのが嬉しくて、ことさら丁寧に作業した。
まだサンダルを履くには寒すぎるし、今日もここに来るまではバレエシューズを履いてきたけれど、高揚感のままに彩った爪は濡れたようにぴかぴかだ。
色は真紅。
夏が終わりに近づくと、サンダルの履きすぎで足の甲が日焼けして、ペディキュアは映えなくなる。
肌のトーンが明るいこの時期のコントラストが、一番綺麗だと思う。
「マニキュア、すか」
「うん、一昨日塗ったの」
「へえ」
ずる、とジーンズが足首を通り抜けた。
当たり前のようにショーツも取り払おうとする光の手に少しだけ躊躇うふりをしてみたけれど、大人しくその手に従う。
内側から火照って少し汗ばんできている身体をベッドに横たえて、軽く腰を上げた。
何も身につけていない私を満足そうに見下ろした光は、膝裏に手を差し入れて私の脚を大きく開かせて、そのまま脚の間に顔を寄せた。
「もう濡れてますやん」と低く笑いながら、ふう、とそこに息を吹きかける。
その感覚にひくりと震えた私の蜜壺は、光の舌に触れられることを期待して、じりじりと疼く。
ねえ早く、と心の中で唱えた、その瞬間。