第60章 秘密の花園〔幸村精市〕*
花は買っちゃってたから持ってきたんだけど、と精市は少し照れくさそうにはにかんだ。
精市の腕の中では、チューリップやラナンキュラス、スイートピーといった花がひしめき合っている。
春をぎゅっと凝縮したような花束は、どれも精市の好みそうな花。
そして、どれも私の好きな花で。
それがすべてを物語っている気がした。
「だから指輪選び、付き合ってくれないかな? プロポーズはそのあとで、改めてするから」
肝心なところで詰めが甘いのは、若さゆえだろうか。
けれど、これからは私が補えばいい。
きっとそれが、結婚するということなのだと思う。
「着替えてくるから待ってて」と言い置いて立ち上がる。
スーツまで着て決めてきてくれた彼に恥じない格好をしなければ。
私はクローゼットから、精市が持ってきてくれた花束のような春色のワンピースを取り出した。
初めてのデートは、思い出深いものになりそうだ。
fin
◎あとがき
お読みいただき、ありがとうございました。
長かった…ですよね、先に謝りますすみません。
でも個人的には久々の幸村くんを結構楽しみながら書いたのですが、皆さまはいかがだったでしょうか。
お話を書くとき、私は大抵、核になるシーンを最初に書きます。
そこからストーリーを膨らませて、辻褄を合わせながら肉づけしていく…という流れなのですが。
このお話、最初に書いたシーンは「合鍵を持ってるのにわざわざインターホンを鳴らす」という場面でした…うわあ何それ全然核じゃない…!
夢主のアラサー設定や、幸村が花を貢いでくれるとか、久しぶりに裏でも書くかなとか、全部後から思いついて盛り込んでいったら、こんなに長くなってしまいました。
タイトルはいつか幸村の話で使いたいと塩漬けになっていたもので、ようやく陽の目を見ました、よかった。
私はどうも、歳下イメージのない人を無理やり歳下設定にして書くのが好きなようです。
今回の幸村しかり、いつぞやの木手しかり、仁王しかり。
我ながらワンパターンだなと呆れています…が、全部思い入れのある作品なので大目に見ていただければと…笑
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。