第60章 秘密の花園〔幸村精市〕*
「好きだよ、すごく…本当に好きだ」
激しい律動の隙間、あまりにもまっすぐな愛の言葉を、恥ずかしげもなく何度も口にする精市は、やっぱり若い。
それは向けられた私の方が恥ずかしくなってしまうくらいの甘さなのだけれど。
私の賞味期限はまだ先で、自分にはまだ愛されるだけの価値がある、と。
与えられる快楽に思考が霞んでくる中でも、精市の言葉に、無意識にその安心感を見てしまう私は、彼の若さを笑えない。
そして精市はいつも「ねえ、渚さん、は…?」と、私にも同じだけの言葉を求める。
「私も…わたしも、すき」
言霊、とはよく言ったものだ。
実際に言葉にすると、本当に私はこの歳下の男を愛しているのだと、胸が痛くなるほどに自覚させられるのだから。
うっすらと汗をかいた精市が、ふふ、と私の言葉に嬉しそうに笑う。
「でも、俺の方が好き」という囁きが、唇に触れた。
そのまま絡まった舌は溶けてしまいそうなくらいに熱くて、互いにどうしようもなく惹かれ合っているという事実を、言葉より雄弁に知らせてくる。
「…渚さん、締めすぎッ、だよ…!」
「知らな、ッあああ!」
どちらともなく達して、行為が終わる。
呼吸を整えながらのキスはとても優しいのに、「興奮してたでしょ、いつもよりすごかったね?」なんて羞恥を煽る言葉ばかりを選ぶ精市は意地悪だ。
「もう、バカ」と軽く拳をぶつける胸板はとてもたくましくて、私はいつも何のダメージも与えられない。
「シャワーしたらコンビニ行かない? 俺、アイス食べたくなってきたな」
はいはい、元気ね、とわざとあしらうような口調で言ってやると、精市は笑いながら「拗ねないでよ、今日はバイト代が入ったからハーゲンダッツ奢らせて」と言った。
期間限定のフレーバーが美味しいらしいよ、チームメイトのスイーツ男子が言ってた、とも。
歩いて五分のコンビニに買い物に行くのが、私たちの唯一の外出だ。
デートに行かなくていいように、私はインドア派だからと言い張ってある。