第60章 秘密の花園〔幸村精市〕*
律儀な精市は、私の部屋に来るとき、必ずインターホンを鳴らす。
何のために合鍵を渡してあるのかよくわからないなと毎回思うけれど、彼なりの誠意なのだと受け取ることにしている。
それに、彼がモニターに映ると年甲斐もなく胸が高鳴って、なんとも言えず心地いいのだ。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
精市はいつも手土産のように花を持ってきてくれる。
それは彼が自宅の庭で育てたもののおすそ分けのこともあるし、「目に止まったから」と花屋さんで買ってきてくれることもある。
今日は白のダリアが二輪。
「ちょうど昨日咲いたんだよ」と精市は笑ったけれど、出会った日に私がダリアを好きだと言ったことを覚えていてくれたのかもしれないと思うと、少しくすぐったい。
精市は時折、とてつもなく立派な花束を持ってくることがある。
普通に買えば二万円は下らないだろうという花束は、持ってきた、というより運んできた、という方が正しいような代物だ。
どうしたの、と聞くと精市は決まって「渚さんにプレゼントだよ」と微笑む。
最初はそれを真に受けそうになったけれど、花束をよくよく見ると、精市があまり好みそうにないストレリチアの花が入っていて。
そう指摘すると、「さすがだなあ、すぐばれちゃうなんて」と精市は悪戯っ子のように首をすくめて「テニスの大会で優勝したんだ」と言った。
大学生に何万円も遣わせてしまったのかと焦ったから、そうではなかったことにとても安堵した。