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短編集【庭球】

第60章 秘密の花園〔幸村精市〕*


*裏注意
*幸村=大学生、ヒロイン=社会人設定




とても静かに切り出されたその言葉の意味を飲み込むのに、どれくらいの時間がかかっただろう。


「…好きな人ができたんだ、別れてほしい」


社会人になってすぐ付き合い始めて六年、同棲を始めて一年。
友人や同僚がぽつぽつと結婚していく中、正直、そろそろプロポーズされてもいい頃合いだと思っていた。
「彼に結婚を意識させる方法」なんて女性誌の特集を一生懸命読み込んで、やっぱり結婚情報誌を見えるところに置いておくのがいいのかな、とまで考えていた私は一体なんだったのだろう。

そっか、それなら仕方ないね、と。
三年前の私なら、すぐにそう言えたのかもしれない。
でも、今の私は押しも押されもせぬアラサーで。
私に残されている時間は、あまりにも少ない。


「女はクリスマスケーキ」なんて言うとひと昔前の男尊女卑みたいで嫌だし、今どき二十五より前に結婚したら相当早婚の部類だと思うけれど。
女には遅かれ早かれ賞味期限が来る──少なくとも私はそう思っている。
特に、私みたいな平凡な女には、他人より早くそのときが訪れる気がしてならない。
誰に、何に急かされているのかはわからない。
ただ、焦りだけは加速度的に増すのだ。

もし仮に、今の自分に彼以外の気になる人ができたとしたら?

私なら、六年も付き合った彼氏と、ありふれているかもしれないけれど穏やかな未来を、叶うかどうかもわからない新しい恋のために捨てることはできないし、絶対にしない。
片想いをして告白して、それなりの交際期間を経て、なんて悠長なことをしていたら、あっという間にアラフォーだ。

男と女の時間感覚は違うと聞いたことがあるけれど、こんなところでそれを痛感させられるなんて。
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