第59章 スクープの向こう側〔白石蔵ノ介〕
かぶりを振って、教わったセオリーをもう一度振り返る。
インタビューは先月書いたばかりだから避けたい。
賞レースをつくるというのはまだやったことがないけれど、今回は締め切りが迫っていて不可能だ。
となれば、残っているのは。
「…もうこの際、ゴシップでもええわー…」
記者のお姉さんはゴシップもありだと言っていたけれど、私は好きじゃない。
他人の不幸は蜜の味、とはよく言ったもので、内容がエキセントリックであればあるほど話題性は増すけれど、そのぶん傷つく人が出てしまうと思うから。
本物の新聞なら社会正義のために、週刊誌なら売り上げ部数のために、ある程度の犠牲を払うのも仕方ないのかもしれない。
でも、学校新聞はみんながハッピーになるためにあるものだと思うのだ。
「珍しいな、林サンがそんなこと言うん」
「ここまでネタに困るん、初めてやもん。あー、そこらへんにネタ落ちてへんかなあ」
「…ならゴシップ、つくる?」
「え?」
つくるってどういう意味、と続けようとしたとき。
私より一足早く、白石くんが微笑みながら言った。
「俺らが手繋いでるとこ、撮ればええんやろ」
心臓が、いや、もう身体全体が壊れてしまうんじゃないかというくらい、ぎゅうと痛んだ。
全然知らなかった、白石くんが誰かと付き合っていたなんて。
勝手に好きになって、勝手にどきどきしていた私は、なんて滑稽なんだろう。
「…あ、白石くん、彼女おったんや! 知らへんかったー…!」
声が少し震えてしまったけれど、せめてうまく笑わなければ。
そう思うのに、どうしても白石くんの顔が見られなくて、ノートに視線を落とす。
いまだに何も書いていないノートの罫線が少し滲んできて、ああダメだ、ここで泣くのは反則だ。
だって白石くんは何も悪くない。
困っている私のために、ネタを提供してくれようとしているだけなのだ。
感謝こそすれ、自分の失恋に泣くなんてことは許されない。