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短編集【庭球】

第59章 スクープの向こう側〔白石蔵ノ介〕


そうして行き詰まっていたところで突然、来るはずのない白石くんがやってきたのだから、驚くのも当然だった。
白石くんはすいすいと私の席まで歩いてきて、ノートを覗きこんで「まっさらや」と少し笑って、そのまま私の前の席に後ろ向きに腰かけた。


「その様子はネタ切れやな」
「はい…面目ない」


こうべを垂れる私に、白石くんは制服の腕をまくりながら「よっしゃ、俺が相談乗ったる」と威勢よく言った。
割り当てられた仕事がないのにわざわざ私の様子を見にきてくれたことが嬉しくて、このままここにいてほしいと願っているくせに「部活は大丈夫なん?」と尋ねてしまう自分が、我ながら矛盾だらけで嫌になるけれど。
週末は二日間とも練習試合だったから、今日の部活は軽い筋トレだけで終わったらしい。
そう聞いて、霧が少し晴れるような気がした。





本物の新聞にもネタが枯れる時期があるのだと。
そう聞いたのは、白石くんの小説の連載が始まって二か月経った頃。
職場体験に行くという課外授業で、行き先に新聞社を選んだのは、案の定というかやっぱりというか、私たち二人だけだった。

四天宝寺の卒業生だという記者のお姉さんがいろんな説明をしてくれたのだけれど、彼女はほぼずっと白石くんの方を向いていた。
独特の押しの強さがある彼女の話をノートに書き留めながら、こういう人が新聞記者に向いているのかなと思いつつ、ふと顔を上げると笑顔の口元が少し引きつっている白石くんが見えた。
大人の女の人から見ても白石くんは魅力的なんだなと感心しながら、話がひと段落するタイミングを見計らって「学校新聞書いててネタに困るときがあるんですけど」と切り出すと、久しぶりにこちらを向いた彼女の奥で、白石くんが口の動きだけで「おおきに」と言った。
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