第59章 スクープの向こう側〔白石蔵ノ介〕
テニス部の練習で忙しい白石くんに負担をかけたくなくて、結局、週に一度打ち合わせをすることに落ち着いた。
私が用意できそうな記事の内容と、それがどんなボリュームになりそうかという目処を白石くんに伝える。
彼は毎回、それに合わせて小説の長さをぴったり調節してくれた。
白石くんの小説を誰よりも先に読んで感想を伝えられるのは、とても嬉しかった。
私が困っているときはいつも、そっと助けてくれた。
体育祭直前企画と題して「浪速のスピードスターに聞く! 走り方講座」という記事を書こうとテニス部に取材に出向いたときには、忍足くんが「ここでバババッと脚動かすねん」「腕はガーッと振るんや」なんて擬音語を多用してくるのに困り果ててしまったのだけれど。
白石くんが「体育の先生に言葉足して説明してもらったらどうやろか」と提案してくれたおかげで、なんとか形にすることができた。
お礼を言うと白石くんは「俺は何もしてへんやん」と笑って、私が必要以上に恐縮することを優しく阻んだ。
* *
今日は週に一度の打ち合わせの日だったけれど、白石くんは来ないはずだった。
小説が前号で大団円を迎えて、一年余りに渡った連載が終わってしまったのだ。
惜しむ声が多かったから、一回空けて、次の次の号からスピンオフ作品を連載しようという話は、かなり早い段階で決まった。
つまり、今週末に発行される次の号は、私一人で書かなければいけないということだった。
久しぶりに何本も記事を書かなければいけない私は、文字通り大ピンチだった。
白石くんとの二人体制になるまではいつもやっていたことなのに、この一年ですっかりぬるま湯に浸かってしまっていたらしい。
その状態がいつまでも続いてくれることを、望んでもいた。
なんとか短いものは二本書けそうだったけれど、それだけでは小説の載っていたスペースの穴埋め程度にしかならなかった。
トップを張れるメイン記事が必要だ。
でも、それがどうにも思いつかない。