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短編集【庭球】

第59章 スクープの向こう側〔白石蔵ノ介〕


あっという間に原稿用紙を最後まで繰った私に、白石くんは「どうやろか」と不安そうな表情で問うた。


「めっちゃおもろいわ、これ絶対人気出ると思う! 早く続き読みたいもん」
「ほんま?! 他人に読ませるの初めてでな、どんな反応されるかごっつう心配やってん」
「ほんまほんま。なんでこんなん思いつくん? 天才や」
「はは、おおきに」
「それに白石くんの文章ってこう、すっきりしてて読みやすいよな。どこにも無駄がないっちゅーか…私には書かれへんわ、こんなスマートな文章」


まったくお世辞なんかではなくて、本当に思ったままの感想だった。
それを聞いた白石くんは少しくすぐったそうに、けれどとても嬉しそうに笑って、「俺な、文章って性格が出ると思うねん」と柔らかな声で言った。


「これまで学校新聞読んでて、林サンは絶対、他人の痛みがわかる優しい子なんやろなって思ってたで」


一瞬だった。
本当に一瞬。
その一言で、私は恋に落ちた。

そこまで考えて読んでくれている人がいるだなんて、思ってもみなかった。
私にとっては最上級の褒め言葉だった。
その相手が他でもない白石くんで、これから一緒に新聞を書いてくれるだなんて。
私はどれだけ幸せ者なんだろう。

「めでたく連載開始っちゅーことでええかな」と握手を求められたのに、差し出された手を取るのが躊躇われるくらい一気に体温が上がって、心臓が聞いたこともない早さで打っていた。
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