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短編集【庭球】

第59章 スクープの向こう側〔白石蔵ノ介〕


私がものの一秒でそんな後ろ向きな思考を導き出したのは、私をまっすぐに見つめてくる白石くんが、思っていたよりもずっと格好よかったからかもしれない。
目の前のできごとが現実として受け止めきれずに「あー、でもそんなわざわざ来てもらえるような大層な部やないし、テニス部みたいに立派な活動しとるわけでもないし…」なんて卑屈な言い訳を並べた私に、白石くんはまた困ったように笑った。


「あー…それとも俺、遠回しに断られとる、かな?」
「めっ、滅相もございません! 慎んで受け取らせていただきます…!」


なぜ白石くんが微妙な顔をしていただろう私に畳みかけるようにそう言ったのかも、そもそもなぜ入部届を持ってきたのかも、何もかもわからないままだったけれど。
入りたいと言ってくれるのなら正直、断る理由はどこにもなかった。
受け取った紙切れより、それに記された丁寧な筆跡の彼の名前の方が、よほど大切なもののように見えた。

二週間に一度発行している学校新聞を、今はほぼ私一人で書いているという現状を説明すると、白石くんは少し照れくさそうに、小説の連載をやりたいのだと言った。
想定外の回答に驚いたけれど、入部したいと言った彼の本心がようやくわかった気がして、少し安心した。
それに一人で紙面をやりくりするのに手一杯の私にとって、毎号必ず一定のスペースを埋めてくれるというのは、とてもありがたい提案だった。


次の日の放課後、白石くんは「一応これが草案で、途中までなんやけど」と原稿用紙を三十枚くらい持ってきてくれた。
「毒草聖書」なんてタイトルからはまったく内容が想像できないその小説は、基本はミステリーだったけれどコメディタッチで、スパイが出てきたり恋愛要素があったり。

こう書いてしまうと盛りだくさんすぎて胸焼けしそうな気がしてくるのだけれど、白石くんの文章は不思議とそういう感想を抱かせなかった。
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