第59章 スクープの向こう側〔白石蔵ノ介〕
「嘘やん、そんなひどい声やった?」と笑ってみせると、今度は「たぶんもっとすごかったで、心配になったくらいやから」なんて極上の笑みが返ってきて。
なんだかけなされている気もするけれど、それよりも心配してくれたことが嬉しいと思ってしまう私は、相当白石くんのことが好きらしい。
「そんなモンスターみたいな声とちゃうと思うんやけどなあ」と言った声が少しひっくり返ってしまった気がして、この気持ちがバレてはいないかとひやひやする。
* *
あれは忘れもしない、去年の秋だった。
本当に突然、何の脈絡もなく、白石くんが新聞部に入部届を持ってきたのだ。
「これ、ええかな?」
そんな言葉とともに突き出された紙切れを、私は最初入部届だとは思わなくて「取材依頼やったらこんなご丁寧に書面化してくれんでも、口頭で言ってくれれば充分やで」なんて、今考えるとずいぶんとんちんかんなことを口走ったのだけれど。
白石くんは少し首を傾げて、それから「えーっと、違くて…すまん、言葉足りひんかったよな」と困ったように笑ったあと、「入部したいねん、俺」と言った。
部員が足りなくて、友達に頼み込んで籍だけ置いてもらうことで廃部を免れている新聞部に?
勉強も運動も見た目も、どこを探しても隙のないミスターパーフェクトの、あの白石くんが?
──いやいや、ないわ。
そんな美味しい話、あるわけないわ。
それまで、白石くんと話したことは数えるほどしかなかったし、白石くんが新聞部に興味を持っているらしいなんて噂も耳にしたことがなかった。
その時点で思い当たることといえば、テニス部を取り上げた記事のことくらいだった。
全国大会常連のテニス部には何度か取材でお邪魔させてもらっていて、その一環で白石くんを記事に登場させたこともあったけれど、もしかして私の記事が下手くそで見ていられなかったのだろうか。
こんな記事を書かれるくらいなら自分が書いてやると、そう言いたいのだろうか。