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短編集【庭球】

第59章 スクープの向こう側〔白石蔵ノ介〕


「あー…あかんわー…」


放課後の教室、魂ごと吐き出すようにそう呟いて、天を仰いだ。

といっても、抜けるような青空なんてそこにはない。
あるのは無機質な白い天井と蛍光灯だけで。
これじゃ思いつくもんも思いつかへんわ、なんて思わず出た舌打ちは、いかにも御門違いな八つ当たりだ。
椅子の背もたれに身体を預けて呆けていたら、そのままずるずると床に落っこちてしまいそうになって、慌てて座り直した。

机にはまっさらのノートと、一文字も書かれることなく転がったボールペン。
何かインスピレーションが湧くんじゃないかなんて期待して、少し奮発して買ってみたのに。
やっぱりだめだったかと、発想力のない自分の頭が恨めしくなる。
いや、こうなることはどこかで、予想していたのだけれど。

魂をもう一度吐き出しながらノートの上に突っ伏したとき、教室の後ろの扉が突然ガラッと開いた。


「林サン? 大丈夫?」
「ひあ! びっくりしたー…!」


がば、と飛び起きて振り返ると、白石くんが立っていた。
予期せぬ来客に縮み上がった心臓は、ほっとするのもつかの間、白石くんの存在を確認するとすぐにざわざわと波打ち始める。


「はは、そんな元気なんやったらええわ」
「え?」
「体調悪いんちゃうか思ってな、ごっつう苦しそうな声聞こえたから」


そのまま教室に入ってきた白石くんは、整った顔をこれでもかというほど歪めながら「あー、あかんわー、て言ってたやろ?」なんて怪獣みたいな声を出した。
変顔まで絵になるなんてさすがだ。
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