第58章 Hello, again〔佐伯虎次郎〕
佐伯くんが話すたび、言葉と一緒に白い息が出てきたけれど、風はすぐに吐息だけをどこかへ連れ去っていく。
信じられないような言葉だけが私のもとに落ちてきて、相槌を打つことも、瞬きすることも忘れたまま、私は佐伯くんをひたすら見つめた。
私に、告白?
あの佐伯くんが?
何かの間違いじゃないだろうか、あるいは夢なんじゃないだろうか。
そう思うけれど、髪を乱していく風の冷たさも、佐伯くんの瞳の真剣さも、この胸の痛みも、涙でぼやけていく視界も、どれもが本物だ。
「…いざとなったら男の方が女々しく引きずるって本当だよね」
そう言って淋しそうに笑った彼に「私もずっと佐伯くんのこと、忘れられなかったよ」と告げる。
驚いたように目を見開いた佐伯くんは、すぐに柔らかく微笑んだ。
周りをあたたかい気持ちにしてくれる、その笑顔が大好きだったのだと思い出す。
「遅くなっちゃったけど…改めてよろしく、でいい?」
照れたように眉尻を下げた佐伯くんが差し出してきた右手を、私はそっと握った。
あまり好きではなかった潮の香りが混じった風を、正面から受け止める。
近いうちにまた帰省してこようと、そう思いながら。
fin
◎あとがき
お読みいただき、ありがとうございました。
初サエさん、いかがでしたか。
冬は同窓会シーズンだと勝手に思っています。
そして何を隠そう私自身、夢主ちゃんと同じ地元苦手族。
高校、大学、社会人とライフステージが変わるたびに、過去の自分とは逐一決別している…ってそんなに大げさに変身してきたわけじゃないんですけど笑、そんな意識でいるためか、自分の過去を知っている人と会うのは気恥ずかしい。
珍しいタイプなのかな、もし私が超変わった感覚の持ち主なら、この夢はあまり読者の方に響かない内容なのかもしれないですね…すみません、でもまあいいか!笑
タイトルは最後のサエさんの台詞「改めてよろしく」を意訳し、また意訳して行きついたもの。
サエさんとの恋も地元への感情も「もう一度やり直そう」という姿勢、そしてリスタートという言葉にはない少しの気恥ずかしさとぎこちなさ、を表現したつもり…伝わっていたら嬉しいです。
少しでも楽しんでいただけますように。
どうでもいいですが、テニラビのイベント忙しかった…わかる方、ぜひお話ししましょう笑