第8章 草枕〔千歳千里〕
「お前の夢、見たったい」
「うん」
「白石と一緒やったばい」
「へえ」
「驚かんと?」
「ああ、言われてみればちょっとびっくりかも」
「……付き合っとうと?」
「まさか」
「…なら、こげんこつしてもよかね?」
ふわ、と体温を感じて、目を開けたら。
千歳の枕になっていたはずの左腕が、私をすっぽりくるんでいた。
状況に驚くより先に、彼の整った顔が近づいてきて。
唇が、重なる。
「…ち、とせ…?」
「男の腕で目瞑ったらいかんばい。キスしたくなるっちゃろ」
「え」
「…拒否、せんと?」
ざわざわ、と風がカエデの葉を揺らす音が聞こえる。
普段はまっすぐ目を見て話す千歳が、瞳を少し不安そうにゆらゆらと揺らした。
ああ、そうか。
私がさっき、白石くんの名前を出したから。
千歳でも不安になることがあるのだと思ったら、なんだかほっとするような、くすぐったいような。
「拒否なんか、しないよ」
「そうか」
「嬉しかった」
私だけが千歳を必要としていたわけではなかったことが、嬉しかったから。
腕を伸ばして、千歳の顔に触れる。
切れ長の目をぱちぱち、と瞬かせたのはきっと、少し驚いたのだろう。
すぐに優しい顔になって、私を包む腕の力がぐっと強くなった。