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短編集【庭球】

第58章 Hello, again〔佐伯虎次郎〕


*大学四年設定





地元は嫌いだ。

見渡す限りどこまでも続く九十九里浜、その浜辺にある小さな街。
一時間に一本しか来ない電車、単線の無人駅。
海しかないこの街は、不便を絵に描いたような片田舎だ。
特に冬になると、唸りを上げて吹きすさぶ海風が、容赦なく突き刺さる。


地元は嫌いだ。

東京で一人暮らしを始めて四年。
忙しない場所での生活に慣れきってしまったせいか、ここだけは時間が止まっているような。
景色がまるっきりあの頃のままで。
できれば触れたくはない苦い思い出が、鮮やかによみがえってきてしまうから。


そんなわけで、盆暮れ正月には帰省するというのが世の常だと薄々感じつつも、私は何かと理由をつけて実家に寄りつかなかった。
兄と妹に挟まれた中間子だったこともあって、もともと放任主義だった親の監視の目は驚くほど緩かった。
気がつけば、大学入学直後の大型連休に帰省して以来、実家は三年半ぶりだ。


なのに。
そこまで毛嫌いしてきた地元を、私は今、あろうことか胸を高鳴らせながら歩いている。

──佐伯くんの、隣で。


* *


清涼飲料水のCMにそのまま出られそうな爽やかなルックス、どこか品のよさがある柔らかな物腰、おまけに成績もよくてテニスまで上手くて。
平たく言えば、神が二物も三物も与えてしまったような人。
それが佐伯くんだった。
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