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短編集【庭球】

第57章 チョコレート・ブルース〔日吉若〕


「先輩が忍足さんとキスしてたの見て、俺がどれだけショックだったかわかりますか」
「きッ、キス?! 忍足と?! ないない、なんで、そんなのしてないよ!」
「え、先月、先輩が練習後しばらくいなかった日…」
「あー…!」


日吉に睨まれたのが悲しかったこと。
泣いていたら忍足が慰めてくれたこと。
当然キスはしていないこと。

そう説明した私に、日吉は「そうだったんですか…」と言って腕の力をさらに強くした。
そのぬくもりが嬉しくて、また涙が出てきそうになる。


「勘違いしてました、すいません」
「みたいね」
「俺、視力悪くて、睨んだつもりはなかったんですけど…」
「そう、だったんだ」
「はい。…あの、改めて、いいですか」


ずっと好きでした──


そして「先に言わせてすみません」とつけ足した日吉は「これ、今食べていいですか」とガトーショコラの箱のリボンを解いた。
さっき落とした衝撃で中身は案の定ひび割れて、ところどころ崩れていたけれど、日吉は「美味しいですよ」とフォークを器用に使ってぺろりと食べてくれた。


「ごちそうさまでした」
「ううん、こちらこそありがとう、食べてくれて」
「食べないわけないでしょう」


どれだけ待ったと思ってるんですか、と困ったように笑う日吉に見とれていたら。
「待ちくたびれましたよ」という言葉とともに、チョコレート味のキスが落ちてきた。


fin





◎あとがき

お読みいただき、ありがとうございました。
非常に長くなってしまいましたが、いかがでしたか。

前作の続きをリクエストしていただいてたのですが、ずいぶん長らくお待たせしてしまいました…すみませんでした。
書いておいてなんですが、私自身は気が短くて、こういう焦れったい展開はあまり好きではありません笑
書いている自分が、登場人物以上にもどかしくなってしまうんですよね…!

そして、バレンタインのお話なのにバレンタイン過ぎての公開なのは、もう本当にごめんなさい。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
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