第57章 チョコレート・ブルース〔日吉若〕
継続は力なり、というのは本当だ。
古武術でもテニスでも、努力は嘘をつかないことは身をもって実感している。
そして、俺の後ろに逃げ込んでくる先輩を守る、あの一連の流れも。
日課だったからこそ恋心が大きくなったし、その気持ちが力になったと思う。
だとすれば。
忍足さんがこれから毎日、先輩のことを守ったとすれば。
後ろで「ほら、お前らがあんまりうるさいから日吉が呆れてんで」なんて茶化されて、思わずため息が漏れる。
アンタのせいだろと脳内で突っ込む気力さえ奪われそうだ。
忍足さんに先輩を掻っ攫われる、頭にちらついたそんなバッドエンドを振り払うように、俺はラケットを取った。
継続は力なのだ、この恋敵を早く倒せるようにならなければ。
と格好つけてみたものの、自慢じゃないけれど気の長い方じゃない俺は、もどかしさだけが蓄積されていく日々にそろそろ限界が近かったのだと思う。
その日、全体練習は五時前に終わった。
十二月と比べて日が長くなってきたとはいえ、高速で飛んでくる小さなボールは、薄暗くなってくると途端に見えづらくなる。
終わりがけに顔を出した榊先生のもとに集合をかけて話に耳を傾けていると、コートから少し離れた手洗い場のところに、林先輩らしき人影が目に入った。
作業する手を止めてこちらを見ている、ような気がした。
自惚れにもほどがあると自嘲しながら、目をぎゅっと細めて、先輩が誰を見ているのかを読み取ろうと試みる。
けれど夕闇も邪魔して、結局俺の視力ではそれが叶わなくて。
視線の先にいるのが俺だったらいい、そんな考えが浮かんで、思わず眉をひそめた。
先生の話を聞いている最中だというのに、何をやってるんだ、俺は。