第57章 チョコレート・ブルース〔日吉若〕
*第53章「背中合わせのプレリュード」(P338〜)の続編です。読んでおかないと理解不能かと思いますので、お手数ですがご一読ください
継続は力なり、と。
幼い頃にそう教えてくれたのは父だったか。
来る日も来る日も林先輩に背中を貸すというルーティンワークが、二日に一度になり、一週間に一度あるかないかになった境目は、元をたどればやはり四か月前のあの日──新人戦の抽選会の日、に違いなかった。
先輩が向日さんや宍戸さんと些細なことで言い争いになるのは相変わらずなのに、逃げ回り始めるとまるで行き先を失ったかのように、その足を止めてしまうのだ。
俺は拒否したわけじゃない、これまで通り先輩のために空けてあるのに。
ときにはわざわざ先輩に背中を向けてアピールまでしてやっているのに。
いつもみたいに俺の後ろ、来ればいいじゃないですか。
なんて、 言えるわけないだろ。
時折背中を貸しても、以前のようにぴたりと張りついてこなくなった。
言葉を交わすときには、恥ずかしそうに顔を赤くして、声のトーンが少し上がるようになった。
それらを考慮に入れれば、俺のことを異性として意識してくれているがゆえの行動なのだろうとは思う。
いや、そう信じたい。
けれど、それにしたってあからさまに避けられるのはさすがにつらいというのが正直なところで。
あの日に抱いた甘く密やかな予感は、日に日に目減りして、もう尽きてしまいそうだ。
そして何より、俺との距離が離れていく代わりに、忍足さんとの距離が縮まっているという事実が、俺をいらつかせていた。
「もうええやん、どっちもどっちなんちゃうん?」
ああ、またこれだ。
今日も先輩は、向日さんに売られた喧嘩を懲りずに買っていた。
俺の背中を無視して路頭に迷っていたところを向日さんに捕まって、そのまま延々と水掛け論。
そこに忍足さんがやんわりと仲裁に入って、救いの手を差し伸べるのだ。
この四か月、特にここ一か月の間、その頻度は高くなっていくばかりで。