第56章 ぬくもりのいろ〔宍戸亮〕
「ねーねー、跡部ってガッコでもあんな感じ? 女の子に囲まれてさー」
「たぶん想像通り、じゃないかな…ファンクラブの子たちはみんな跡部さまって呼ぶし、生徒会長だし」
「やっぱ生徒会長もやってんだ!」
「一年の頃からだよ」
「そんなのアリ?! って、まあ跡部なら…他のやつが学校指揮ってんのとか我慢できねえ! って言い出すタイプだろうな〜性格ジャイアンだし」
「ジャイアン! あはは、やだ〜面白いけどそれ氷帝で言ったら処刑されるからね!」
「げ。でも言っとくけど性格だけだかんな! 跡部ってばイケメンだし、歌も上手いし…」
「あー、たぶんもう手遅れ。菊丸くん、ウチの学校出禁だよ」
「うあー、さっきのナシ!」
あっという間に彼のペースに飲み込まれていて、クラスメイトの男子なんかよりずっと自然に話すことができた。
例えるなら、まるでずっと昔からの女友達のような。
意外と優柔不断な亮がようやくシューズを決める頃には、跡部の話題でお腹を抱えて笑うくらいまで打ち解けていた。
たくさん笑ったら、さっきまで悶々と悩んでいた心が少し晴れたような気がした。
「じゃーな、菊丸」
「ほいほーい、氷帝のみんなにもよろしく! 林ちゃんもまたねー!」
「うん、じゃあね」
菊丸くんは本当に何も買うつもりがなかったらしく、私たちと同じタイミングで店を出て、そのまま別れた。
終始賑やかだった彼は、後ろ姿からもそのひょうきんさがにじみ出ているようで、思わずくすりと笑ってしまう。
「悪りいな、待たせて」
「ううん、菊丸くんと話してたら全然、あっという間だったよ」
「そう、か」
「菊丸くんって面白いよね、跡部のことジャイアン呼ばわりするんだもん」