第56章 ぬくもりのいろ〔宍戸亮〕
こうして並んで歩くことを許されているのは、亮が告白を断ってくれたからなのだろうか。
それとも、それも私のおめでたい思い違いで、亮は別れ話をするために歩いているのだろうか。
そういえば、今日は亮の口数がいつもより少ないんじゃないだろうか。
普段は気にもとめないようなことが、妙に気になってしまう。
たとえば今ここに空気があることと同じくらいに、私と亮との関係は揺るぎないものだと思っていたのに。
その自信は、こんなにも簡単なことでぐらぐらと崩れそうになっている。
ねえ、教えてよ。
言ってくれなきゃわかんないよ。
好きって言ってよ、不安だよ。
こぼれ落ちてしまいそうな言葉を、口をぴったりと引き結んでせき止める。
ふと「そういや、こないだの英語のテストが…」と話し出した亮に、口角をきゅっと上げてみせた。
「んー、こっちも捨てがたいな…」
壁一面に並べられたテニスシューズを前に、亮は困った声で、けれど嬉しそうに、あれこれ手に取って吟味していた。
正直、私には色の違いくらいしか差がわからないけれど、素人には理解できない機能面の方が、本人にとっては重要なのだろう。
今履いているものは、底がすり減って踏ん張りが効かなくなってきたのだという。
努力家の亮らしいなと、私が頑張っているわけではないのに少し誇らしくなる。
たっぷり時間をかけてようやく絞りこんだ三足を試着したいと、店員さんにサイズを出してきてもらっているときだった。
「あーっ、宍戸じゃん!」
陽気な声に振り返ると、見覚えのある顔。
あ、この人って確か──
「菊丸じゃねーか! 偶然だな!」
「ほんと、すっげー偶然! 久しぶりだねん…って、意外とそうでもにゃいかも?」