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短編集【庭球】

第56章 ぬくもりのいろ〔宍戸亮〕


それが不満なわけじゃない。
テニスをしている亮はかっこいいし、テニスのことを話している亮はいきいきとして楽しそうだし、彼女としてできることなら何でもしたいというのも、嘘偽りない本心だ。
もちろん、私と過ごす時間がもう少し増えたらいいのにと思わないわけではないけれど。
それが単なるないものねだりだということくらいは、いくら中学生の私でもわきまえているつもりだ。


それなのにこんなに不安になってしまうのは、亮が告白されたらしいと聞いたから。

亮がモテないわけではないけれど、巨大なファンクラブがある跡部や忍足と比べると、言い寄ってくる子は少数派だ。
言い換えれば、告白してくる女の子はそれだけ本気度が高いということ。

レギュラーに復帰するとき、自慢の髪をばっさり切ってしまってからは、離れてしまったファンが多かったらしい。
そのぶん新規ファンもたくさんいたことを、私は知っている。
もっとも、亮はそんなことは一ミリも気にかけていなかったけれど。



さっきも遠回しに尋ねてみたけれど、告白されたなんて言葉はもちろん、それらしいそぶりさえまるでなかった。
私に余計な不安を与えないようにという亮なりの気遣いなのだろうと、頭では理解しているはずなのに。
亮はこういう嘘が苦手な人種だろうと勝手に決めつけていたけれど、思い違いだったのだろうか。



男子テニス部、特にレギュラー陣の色恋沙汰に関する噂話は、それこそ光より速いんじゃないかという速度で回ってくる。
亮に告白した相手がどこの誰なのか、もちろん情報は網羅されていただろうけれど、私は意識的に聞かなかった。
亮がその告白にどう応えたのか、も。

亮に私という彼女がいることを、きっとその子は知っていたはずで。
あえて告白を強行したのは、それだけ勝算があったのかもしれない。
私の心を隅から隅まで探したところで、そんな度胸も勇気も出てこないことは明白で、その時点でもう女として負けてしまっている気がする。
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