第56章 ぬくもりのいろ〔宍戸亮〕
「ねえ、私のこと好き?」
「……は? じゃなきゃ付き合ってねーだろ」
隣を歩く私の顔をぎょっとしたように一瞥した亮は、巻き直したマフラーに顔を埋めながら「わざわざ言わなきゃわかんねえか?」とぼそりと言った。
その言葉の奥、隠しきれていない呆れの色が淋しくて、そっと唇を噛む。
「言ってくれなきゃわかんない」とか「好きって言って」とか、口にしてしまえたらどれだけ楽だろう。
そう思いながらも、私の唇からは「あはは、だよねー、ごめん」なんていつも通り、聞き分けのいい言葉が出てくる。
私たちの間を、落ち葉を連れた空っ風が吹き抜けた。
本当はわかってるよ、わかってる。
当たり前のように車道側を歩いてくれるのも、後ろから自転車が来ると少し強引に守ってくれる手も。
私のとりとめのない話に、ぶっきらぼうだけれど時折笑いながら付き合ってくれる優しさも。
亮の一挙手一投足が、私が彼女という立ち位置を与えられていて、そして愛されているということを教えてくれる。
──でも、わかっていても言ってほしいことだってある。
それが女心だと思うのだ。
はあ、と細いため息を吐いた。
なんて湿っぽいため息だろう。
漏れそうになる苦笑を奥歯で噛み殺す。
視線だけをちらりと隣に投げると、亮は下を向いて、足元の枯葉を蹴飛ばしているところだった。
自分で言うのもどうかと思うけれど、私はいつだって、物分かりのいい彼女だ。
滅多にない休みでも、亮が鳳くんとトレーニングをしたいと言えば、どこにデートに行こうかと考えを巡らせていたことなんておくびにも出さず快諾する。
試合前、軽めの調整だけで上がる今日みたいな日だって、新しいシューズが見たいと言った亮にくっついて、テニスショップへ足を向ける。