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短編集【庭球】

第55章 Nightmare before Xmas〔亜久津仁〕


「クリスマスまでの三日間は一年で一番忙しいんだって、店長が言ってたの」
「フン」
「閉店時間も遅くなるんだって。もしよかったら亜久津もクリスマスケーキ買いに来てね」
「ハッ、くだらねえ。どうせモンブランじゃねーんだろ」


ぶっきらぼうにそう言い置いて亜久津が出ていくと、ちょうど店の時計が八時の時報を鳴らした。
扉の札を「Closed」にして、バックヤードに向かう。
いつもこの時間には厨房を片づけている店長が、今日はまだせかせかと動き回っていた。
このまま徹夜でスポンジを焼き続けるらしい。

私も冬休みだから、明日以降は開店から閉店までの一日コースだ。
クリスマスの三日間は繁忙手当も出るから頑張らなくちゃ。


* *


「クリスマスは戦場だから」という店長の言葉は本当だった。
ひっきりなしにやってくるお客さんに時間も忘れて対応していて、ふと空腹を感じたと思ったらもう外は暗くなっていた。
当然何かを口にするような暇はなくて、そのまま普段より一時間遅い九時の閉店まで働き続けた。

まだ初日しか終えていないのに、もうへとへとだった。
丸一日立ちっぱなしで足が棒のようだ。

あと二日もこの忙しさが続くなんて信じられない。
どうやら私はクリスマスをナメていたらしい、こんなにもケーキが売れるなんて思ってもみなかった。
この時期にしか見かけないブッシュドノエルなんて、もう一生分見たような気がする。
そんなことを考えながらふらふらと店を出た。
いつもよりも遅いからか、それとも疲れているからか、寒さが身にしみる。


「おい」
「ひっ?!」


駅に足を向けようとした瞬間、暗がりから声がして。
その声の迫力に、思わず身体が硬直する。
いや、でも、この声は。
小さな舌打ちが聞こえてきて、その予感が確信に変わる。


「亜久津…?」
「あァ?」
「よかった、びっくりした…けど、あれ、モンブラン昨日だったよね?」
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