第55章 Nightmare before Xmas〔亜久津仁〕
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何も見なかったことにしてくれるという亜久津の主張に、肩透かしを食らったような、拍子抜けしたような、そんな気分になった。
けれどあまり疑いすぎて亜久津の気が変わってしまうのは避けたいし、かといって大きな借りを作ってしまうのは気が引けるし、何よりリスクが大きすぎる。
なんせ相手はあの亜久津なのだ、とにかくプラスマイナスゼロにしておかなければ。
その一心で半ば押し売りのように条件を飲ませて、ひとまず目的は達成した。
亜久津の来る日は、バイトに入るタイミングでモンブランを一つ自腹で買って、ショーケースの隅に取り置いておく。
亜久津は一つ分の金額を支払ってくれればいい、モンブランを二つ箱詰めして渡す。
だからバイトに入る前に連絡をしてほしい──
そう頼むと、昼ごろまでに連絡を入れてくるようになった。
たいていは木曜か金曜の夕方。
亜久津はタイミングを見計らっているのか、店長や奥さんや他のお客さんがいるときには、絶対に店に入ってこなかった。
週一回の契約は、こちらの気が抜けてしまうほどきっちりと守られた。
正直、弱みにつけ込まれてもっと頻繁に来るようになるんじゃないかと思っていたのだ。
それも加味してはじき出した、少し甘めの条件だったのに。
もちろん被害額は少ないほうがいいに決まっているけれど。