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短編集【庭球】

第55章 Nightmare before Xmas〔亜久津仁〕


そうなればおそらく引越しをすることになるのだけれど、大学の近くはかなりの田舎。
決して交通の便がいい場所ではないから、バイト代でバイクか中古車を買ったらいいんじゃないか、というのが私のビジョンなのだ。
少しでも学費の足しになればという思いも、もちろんある。
だから、失敗は許されない。


「委員会の集まりがあるから」と嘘をついて、身支度もそこそこに普段より三十分も早く学校へ向かった。
誰もいない教室に滑り込むように入って、亜久津の机の中に手早く手紙を忍ばせる。
内容はもちろん、昨日のことで話があるから昼休みか放課後に屋上へ来てほしい、という旨だ。
亜久津のことだ、中身をろくに見ないで捨ててしまうこともあるかもしれない。
ちゃんと読んでくれますようにと祈りながら、自分の席に突っ伏した。


一限目が終わってからようやく登校してきた亜久津は、動物的な勘なのか、席に着くなり手紙の存在を把握したようだった。
その場では開かなかったからハラハラしたけれど、授業が始まってから机の下で手紙を確認して、すぐに折りたたんでポケットに突っ込んでいた。
何事もなかったかのように黒板に視線をやる亜久津の横顔は、いつもどおりの人相の悪さ。
呼び出したところでしっかり話ができるのだろうかと、胃が痛くなった。




昼休み、ダッシュで屋上に向かうと、ほどなくして亜久津がやってきた。
背が高い亜久津に見下ろされると、それだけで縮みあがりたくなるような威圧感がある。


「……わざわざ呼び出しやがって、何の用だ」
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