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短編集【庭球】

第53章 背中合わせのプレリュード〔日吉若〕


何に驚いたのか、宍戸の声が裏返る。
そういうことじゃないって、じゃあどういうこと?
話の筋が読めずにそう尋ねようとすると、宍戸は言い淀んだのかジローにちらりと目配せして、少し声のトーンを落として言った。


「ジローの言う通りすげー怖いぜ、最近。お前の盾になってるときの日吉」
「…は?」


今度は私がぽかんとする番だった。
何、どういうこと?
混乱する私を横目に、それまで静観していたはずの忍足が宍戸に同調した。


「せやなあ。か弱い姫さんを守る勇者、っちゅー感じやな」
「だよな。使命感みなぎってるっつーか」
「目がさ、超怖いんだよなー」
「指一本触れさせへんで、て言われてるような気になるよなあ」


二の句が継げずにいる私に三人が、特に忍足が、じりじりと追い討ちをかけてくる。
いくら私でもさすがにわかった──それらの言葉の、意味するところ。


「もう、わかった、わかったから! 私は部誌書いてるの! 邪魔だから早く出てって!」



着替え終わっていた三人をやっとの思いで部室から叩き出して、椅子に座る。
はあ、と吐き出したため息が、妙に熱い。

なんだろう、この心臓の高鳴りは、頬の熱は、きゅうと痛む胸は。

ペンの進まない理由が、甘く密やかな予感へと変わった。


* *


「ひーよーしー、助けてー!」


そんなに大きな声で呼ばなくても聞こえてますよ、とは言わないけれど。
ぱたぱたとかけ寄ってきた林先輩が、俺の背中に回る。
仮にも異性が着替えている最中、腹なんて丸見えの状態なのに、この人は罪悪感や恥じらいといった感情をどこに落としてきたのだろう。
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