第53章 背中合わせのプレリュード〔日吉若〕
「運が悪かった」では済まされないほど、今日の跡部の機嫌は最悪で。
部活が始まる前にも散々お説教されて、もうこりごりだと思っていたら部活後にも続きがあって、後半はもうほぼ八つ当たりだった気がする。
アイツ女に振られたんじゃないの、なんて思いながら部誌を開くけれど、苛立ちと疲れのせいかなかなかペンが進まなくて、それもまた癪に触る。
そもそも日吉がいればこんなことにはならなかったのに、今日に限っていないなんて。
ああもう、全部日吉のせいだ!
「…日吉、最近怖いよねー」
「えっ、…そう?」
ソファで丸くなって寝ていたはずのジローが、へらりと笑いながらあくびまじりにそう言った。
脳内でうっぷんを日吉になすりつけようとしていた私は、内心どきりとする。
ジローは何も考えていないようでいて、その実誰よりも他人のことを見ているから。
普段寝てばかりであまり発言をしないぶん、その指摘は怖いくらいに的を射ていることが多かった。
怖い? 日吉が?
思い当たるのは、やはり部長の重責のこと。
今日のように偉そうで理不尽でムカつくことも数えきれないほどあったけれど、跡部はやっぱり偉大な部長だった。
その後継者になるということは、きっと想像以上にきついに違いない。
私には見えていないところで、あるいは無意識のうちに、日吉も焦ってカリカリしているのだろう。
さすがジロー、と納得していたら、横から宍戸が声を上げた。
「そう? ってお前、すっとぼけんなよ」
「いや、すっとぼけてるわけじゃないけど…やっぱ大変なんだ、跡部の後釜って」
「はあ?! そういうことじゃねーだろ」