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短編集【庭球】

第53章 背中合わせのプレリュード〔日吉若〕


「おい! 今日という今日は許さねーからな!」
「やめてよ、言いがかりは。こないだから部室の大掃除するって言ってあったでしょ」


「片づけて」と何度頼んでもちっとも片づかない、むしろ日に日に散らかっていく部室を見かねて、新部長である日吉の許可を得てたった一人で掃除した翌日。
血相を変えて突っかかってきたのは岳人だった。
床に無造作に置いてあった新刊のマンガを捨てたのがお気に召さなかったらしい。

一週間くらい前から「必要なものは各自のロッカーへ」「そうでないものはすべて処分する」と口酸っぱく告知していたのに。
さすがにその事実は把握していたようで、岳人はばつが悪そうに少し言葉に詰まった。


「…だからって捨てることねーだろ!」
「あーもう、うるさいな。そこらへんに放ってあったんだからゴミだってことじゃん」
「はあ?! クソクソ、マジで頭きた! 一発殴らせろ!」


実際、まだ真新しく見えたコミックスをゴミ袋に入れるのは、いくら私でも一瞬躊躇した。
けれど、ここで甘さを見せてしまうことこそが諸悪の根源なのだと身をもって痛感している私は、心を鬼にして不用品認定したのだ。
本当なら褒めてほしいくらいなのに、クソクソ、はこっちの台詞だ──心の中でそう悪態をつきながら、いつもにましてカッカしている岳人から逃げつつ、日吉を探す。




全国大会の準々決勝で敗退した氷帝では、日吉をトップにした新体制が始動した。
三年は一応引退という扱いだけれど、日本代表の選抜合宿が控えていることもあって、引退とは名ばかりの状態。

マネージャーだった私は、それまでより少し頻度を落として顔を出すようになった。
本来なら完全に足を洗ってもいいところなのだろうけれど、最後の最後まで後任が現れなかったからだ。
結局、仕事内容はすべて後輩の準レギュラーの子に引き継いで、私はそのサポートをする、ということで話が落ち着いた。
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