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短編集【庭球】

第52章 君だけに贈る嘘〔仁王雅治〕


「確か、仁王くんとは席が隣なんでしたっけ」
「え、よく知ってるね」
「ええ、仁王くんがそう言っていましたから。最近林さんの話をよくしていますよ」
「嘘?! やだなー、どうせあいつホント馬鹿、とか言ってるんでしょー」


仁王が、私の話を?
嬉しいと思ってしまっていいのだろうか、と自問しているのに、嬉しいという気持ちが止められなくて。
心臓がうるさいくらいに音を立てるから思わず胸のあたりを手で押さえてみたけれど、なかなかおさまってくれない。


「ご安心を、陰口は言ってませんよ」
「だって、いつもプリとかピヨとか言って、私のこと馬鹿にするんだもん。今日だってね、仁王が勝手に私のこと出席にしちゃったの。なのに自分は来ないなんて、ずるいと思わない?」
「それは感心しませんね」
「でしょ? 仁王がいないならサボっちゃえばよかっ、た…」


そう笑い飛ばそうとしたのに。
言い終わらないうちに手すりに置いた手を取られて、驚きから言葉尻がぷつりと切れる。
あっという間に取られた手に指が絡まった、その状況を飲み込めなくて顔を上げると。


「…このまま抜けるかのう」
「へ? 柳生くん…」
「柳生? さて、なんの話じゃ」
「え?! 仁王?!」


急に仁王のような声音になった柳生くん──いや、見た目と口調がちぐはぐだったのが通常仕様に戻っただけなのだけれど──に混乱しつつ、止まりかけた頭を必死に働かせる。
つまり、柳生くんが仁王に変装していると思っていたのは私の勘違いで、もともと最初から仁王本人だったの?

しどろもどろになりながらそう尋ねると、仁王は「ピヨ」と言ってにやりと笑った。
今のは「その通り、してやったり」だろう。
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