第52章 君だけに贈る嘘〔仁王雅治〕
「仁王くんが最後だよ」
「おお、すまんのう」
「全員集合したんで、出発しまーす」
ぞろぞろと歩き出した集団の最後尾にくっつくと、仁王が隣にやってきた。
見上げるといつも通り飄々と読めない表情だったけれど、私が「柳生くん?」とこっそり聞くと彼はぎょっとしたように一瞬絶句して、それから所在なさげに髪に触れながら「困りましたね」と声を潜めた。
「変装は完璧にしてきたはずなのですが、どこか不自然だったでしょうか…?」
「あ、ううん、そうじゃないの。めんどくさいから柳生くんに押しつけようかなって言ってたの、聞いちゃったから」
「そうですか…申し訳ありませんが、この件は内密にしていただけますか? バレてしまうと私も仁王くんも後々やりづらくなってしまいますので」
「わかった、任せて」と軽く握った拳を見せながら、やっぱり柳生くんだったのかと、予想が当たったことにびっくりなような、淋しいような。
彼──仁王の見た目をした柳生くん──は少し頷いて「申し訳ついでにお聞きしますが、今日は何の集まりなんです?」と困ったように言った。
「え、仁王から何も聞いてないの?」
「ええ、これだけ持っていくようにと」
お菓子の入ったスーパーの袋を軽く持ち上げた彼に、今日の趣旨を説明する。
可哀想に、本当に何も聞かされていなかったらしい。
知らせたところで断られたのだろうから、仁王としては仕方のないところだったのかもしれないけれど。
それにしても、見た目だけじゃなくて仕草まで仁王にそっくりだ。
柳生くんには悪いけれど、仁王が来ないなら私もサボればよかった。
一緒に行こうと誘ってくれたのかもしれないだなんてとんだ自惚れだったなと、私はこっそりため息を吐いた。