第52章 君だけに贈る嘘〔仁王雅治〕
「ま、確かに気は乗らないよね」
「柳生に押しつけるか。確か塾も模試もないはずなんじゃが…」
「ひど! ていうか柳生くんに失礼すぎでしょ、柳生くんは絶対そんなことしないのに」
「ほー、お前さん、えらくやーぎゅの肩持つのう」
「そんなことないよ」という否定の言葉と、授業の五分前を知らせる予鈴とが重なった。
仁王がかったるそうに立ち上がる。
私が「またサボり?」と尋ねると、仁王は「プリッ」とだけ言い置いて、教室を出て行った。
今の「プリ」は「あとはよろしく」か、それとも「次の授業、当たるぜよ」か。
次の授業が英語なのを確認して、私は教科書を繰って申し訳程度の予習を始めた。
* *
待ち合わせ場所の駅前に着くと、私たちのクラスはかなり目立っていた。
かなり凝った仮装をしている子、グロテスクな化粧の子。
その子たちからもうお菓子を少しずつせびっている丸井。
大手を振って同じ集団に合流するのが憚られて、出欠確認を取っている子にそっと来たことを告げると、仮装しないのかと責められそうになった。
慌てて百円ショップで手に入れたデビルのカチューシャを身につけて事なきを得たけれど、なんだかそれだけで疲れてしまって、クラスメイトの輪には入らずに、つかず離れずの距離でスマホをいじって時間を潰す。
「あ、仁王だー」
「おーい、こっちだよー」
時間ぎりぎり。
クラスメイトの声に顔を上げた。
ジーンズにライダース、ストールという出で立ちの仁王が、こちらへ歩いてくる。
よくある取り合わせなのに、どこかおしゃれで格好よく見えてしまうのは、やっぱり私が恋をしているからなのだろうか。
…って、そうじゃなくて。
なんで仁王は仮装、いやイリュージョンしていないのだろう。
テニス部の誰かに、個人的にはなんとなく丸井になりきってみんなの視線を独り占めするものとばかり思っていたのに。
まさかとは思うけれど、そのまさか?