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短編集【庭球】

第52章 君だけに贈る嘘〔仁王雅治〕


それからというもの、私の「もったいない」発言をいたく気に入ったらしい仁王は、何かにつけて私をからかって遊ぶようになった。
頭の回転が早いくせに突っ込みどころの多い仁王と話すのは、純粋に楽しかった。
「プリ」とか「ピヨ」とか、仁王の使う不思議なオノマトペを自分なりに解釈するようにもなった。
授業中、ノートの隅で筆談するときには、仁王のみならず教室中に聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいの音を立てて胸が高鳴った。




髪を撫でてくれていた手が離れていくのを、名残惜しく見送る。
自分の手元に視線を落として「仁王は行くの?」と名簿を探すと、ピンク色のペンで花丸が書いてあった。


「すご、行く気満々じゃん」
「あいつらにやられたからのう」


仁王が面倒くさそうに顎で指した先は、言い出しっぺの女の子たち。
きっと「仁王くんは絶対参加ね!」とかなんとか言われて勝手に書かれたのだろうと容易に想像ができた。
あの中の一人は前から仁王にご執心だから、周りの子たちが気を回したのだと思う。


「不幸の連鎖という名の八つ当たりじゃ」


にやりと笑った仁王に「何それ、私で憂さ晴らししないでよね」と文句を言いつつ本心では、単なる八つ当たりであっても、他の誰でもなく私を選んでくれたことが嬉しかった。
それに都合のいい勘違いかもしれないけれど、一緒に行こうと言われているような気がして。
同時に、あの子と付き合っていたわけではなかったんだ、と心のどこかでほっとした自分を感じて、恥ずかしくなる。


「あーあ、大人しく参加かあ…けど仮装って言われてもなあ」
「適当でよかろ、しょーもないイベントじゃし」
「仁王はいいよね、毎日仮装パーティーみたいなもんだから」
「仮装じゃのうてイリュージョンじゃ。一緒にされると困るぜよ」


憮然としたように唇を尖らせた仁王に「ごめんごめん」と軽く謝ると、仁王は伸びをしながら「それにしても面倒じゃのう…」とあくびまじりに言った。
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