第52章 君だけに贈る嘘〔仁王雅治〕
窓際の一番後ろの席の私に名簿が回ってきたのは、五限と六限の間の休み時間だった。
朝から「ハロウィンパーティーをやりたい」なんて言い出したのはクラスでも華やかな女子のグループ。
お菓子が欲しいばっかりの丸井が話に乗った時点で、その限られたメンバーだけでお菓子の持ち寄りでもやるのだろうと、私は部外者のつもりで彼らのやり取りをぼんやり眺めていたのだけれど。
いつの間にか、日曜の昼に仮装カラオケをしながらお菓子パーティーをする、という大がかりな計画になっていたらしい。
出欠確認のための名簿には、意外にも結構な数の丸印が並んでいる。
積極的に参加したいわけでもないけれど、欠席もしづらい出席率。
どうしよう、とこっそりため息を吐くと、視界の外から突然にゅっとペンを握った手が伸びてきて、私の名前の横に小さな丸印を書き込んだ。
「わっ、ちょっと!」
「ん? なんじゃ」
私が「勝手に何するの、っていうかびっくりするからやめてよ」と咎めても、その主はいつものように、ちっとも悪びれずに「ピヨ」と言うだけだった。
今の「ピヨ」は「聞こえんのう」といったところだろうか。
その脳内翻訳に基づいて、軽く睨んでやる。
「え、しかもそれ、シャープペンじゃなくてボールペンじゃん!」
「おお。行きたそうじゃったし、よかろ?」
「えー…全然よかないよ…」
鼻唄でも歌い出しそうな軽い面持ちで左手のペンをくるりと回した仁王は、私が大きなため息を吐いたのを見て罪悪感がよぎったのか「まあまあ、そう落ち込みなさんな」と私の頭をぽんぽん、と撫でた。
こういう思わせぶりでどきっとすることを平然とやってくるのは、本当にタチが悪いと思う。
正直なところ参加でも不参加でもどちらでもよかったのだけれど、もう少しこうしていてほしくて、私はわざともう一度ため息を吐き出した。
仁王とは月に一度ある席替えのたびに、不思議なほど近くの席になる。
今は隣同士だし、先月は斜め前にいた。
夏休みに入る前は後ろだったっけ。