第51章 Flavor of love〔財前光〕
今日だってそうだ。
一週間後に控える中間試験のためになら、渚先輩は歳下の俺よりも、成績優秀な部長やら金色先輩、数学だけは得意らしい謙也さんとでも勉強していた方がいいに決まっている。
「学校の図書室より静かっすよ」とわざわざ離れた市立図書館に行こうと誘った俺の本心が、学校だといつ邪魔が入るかわからないからなんて子どもじみた理由によるものだと知ったら、ガキだと笑われるのだろうか。
隣を歩くのが俺ではなくて部長なら、金木犀の話題で盛り上がるのだろうか。
「…先輩、シャンプー変えました?」
「え」
前を向いたまま、そう尋ねる。
先輩は目を丸くしてこちらを見て、髪に触れながらそろりと「…わかる?」と言った。
驚いたのは、しばし押し黙っていた俺が急に違う話題を振ったからだろうと思っていたけれど、どうやら俺の言うことが図星だったせいでもあったらしい。
「そりゃわかりますって」
先輩が嬉しそうにはにかむのを横目で見遣る。
香りには詳しくないけれど、淡いフローラル系は俺好みだ。
「金木犀よりこっちのがええ匂いっすわ」
嘘は言わない、けれどじめじめとした嫉妬は綺麗に隠したい。
あからさまな求愛の苦手な俺が愛想を尽かされないうちに、今できる愛情表現。
「嬉しい」と笑った先輩の頬が少し赤くて、体温が上がると香りが強くなるような気がした俺は、気づかれないようにそっと彼女の香りを腹いっぱいに吸い込んだ。
fin
◎あとがき
お読みいただき、ありがとうございました。
こんなに短いお話は久々ですが、いかがでしたか。
手がけている夢がなかなか進まない中、最近金木犀を見つけて、ぶわっと思いついて書き殴りました。
参加しているコミュニティ「テニプリ布教委員会」より、お題「隠された本音」をテーマに。
財前くんってセクシーなのにエロに転ばない、私の中では稀有な存在です。
無愛想を貫きつつ、「あ、いじめすぎた」と反省して甘やかしてくれる…というのが私の恒例の妄想であります笑
タイトルは以前ブンちゃん夢でも使ったものですが、あえて同じものを使いまわし。
いつかシリーズ化できたらいいな…と言いつつ、今はまったくその予定はありませんが笑
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。