第51章 Flavor of love〔財前光〕
「そっか…花のこと話してわかってくれるのは白石くらいかあ」
ご丁寧に「でも毒あるんやで、とか知りたくもないのに言いそうだよね白石は…あ、小春ちゃんならいいのか」とまで言って、くすりと薄く笑って。
俺は表情を変えずに、喉まで出かかっていた言葉が回れ右をしてすうと腹の奥まで落ちていくのを感じていた。
渚先輩は部長と謙也さんと同じクラスだ。
何かと用事を捻り出して教室に出向くと、必ず三人で一緒にいる。
お世辞抜きで、誰にでも愛される人だと思う。
背の高い二人から頭を撫でられるのは日常茶飯事だし、ついこの間、謙也さんがにやつきながら先輩にデコピンしていたのには無性に腹が立った。
部員とマネージャーなのだから、仲がいいことは当然喜ばしいことで、先輩に落ち度が一つもないのはわかっているのだけれど。
俺がおらん時間、他の男に笑顔を向けてんのが許せへんとか、渚先輩がかわええの知ってんのは俺だけでええやろとか、俺と付き合ってんの知っとるくせに部長も謙也さんも気安く触んなやとか。
どんだけ心狭いねん俺、みっともな。
自分にそう突っ込みつつも、謙也さんくらい速く走れたら休み時間のたびに先輩のクラスまで飛んでいって、俺しか見られないようにしてやるのに、なんて。
昼休みも誰より早く迎えに行けたら二人きりで弁当をつつけるのに、なんて思っている自分がいる。
どちらかといえば感情の起伏はない方だし、その方が楽だと思ってきたし、いちいち心を乱されるのは面倒だ。
こんなにも些細なことに一喜一憂するなんて俺らしくないと、他の誰でもなく俺自身が一番驚いている。