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短編集【庭球】

第50章 God save the King〔跡部景吾〕


*大学生設定




たとえば宝くじで十億円当たったらどうするか問われたとして、考え抜いた末にようやく浮かんだとっておきの贅沢をいくつか口にした途端、そのさらに上を行く贅沢を実際に次々と目の前で見せられたときの衝撃の大きさといったら、軽く絶望してしまう程度はある。
それはつまり、私のちっぽけな想像力では、跡部景吾の持っていないものを贈るのは不可能であるということ。

仮に私が今ここで十億円を引き当てて経済力を持ったところで、この状況は何も変わらない。
これに付随してくる絶望感は空より高いし、海より深い。

誕生日に何か特別なものをプレゼントしたいと思うのは、恋人同士であれば至極当然の営みだろうに、どうしてこうも苦行になってしまうのだろう。
でも、いくら神様に与えられた試練が壮絶だからといって、諦めるわけにはいかない。
付き合って初めて迎える彼の誕生日は、二十歳のお祝いなのだから。


まさに窮地、四面楚歌。
こうなった私が頼るのは結局──




「おーしーたーりー…」


席に着くなり机に突っ伏して、魂ごと出てきそうなため息に友人の名前を乗せる。
呼ばれた張本人は怪訝そうな顔をして、読んでいた本から視線だけを少し上げた。
「なんやねん、死にそうな声出しよってからに」という台詞には、ただでさえ吐息がちな声に呆れからくるため息が多分に加わっていた。


「思いつかないんだよー…」
「ああ、その話か」


ちら、と時計に目をやった忍足は、開いていたページに栞を挟んで、本をぱたんと閉じた。
著者は見たことのない海外の作家だったけれど、どうせこいつのことだ、だだ甘い恋愛小説なのだろう。
そういう方面の見識と経験がやたらと豊富なロマンチストの力を借りようとしている私に、そんなことを言う権利はないような気もするけれど。
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