第49章 月に願いを〔向日岳人〕
さっきの親子連れは無事帰ったようでいなくなっていた。
自販機でホットココアを買って、指定席のベンチに並んで腰掛ける。
岳人が「お前の話、跡部とかユーシのことばっかじゃん。ちょっとは俺のことも見ろっての」と拗ねたように言ったのを聞いて、「ごめん」と謝りながらこみ上げてくるにやつきを堪えるのに必死になる。
お互い同じような嫉妬をしていたなんて、思ってもみなかったから。
岳人の横顔が不意に明るくなった。
空を見ると、分厚い雲が通り過ぎて、また月が顔を出したところだった。
「さっきの子、テニス始めたりしてね」
「ああ、そうだといいな」
ベンチの上で遊ばせていた左手が、岳人の右手と触れた。
少し躊躇ったあと、意志を持って私の手を握ったそれは、冷えてきた秋の空気とは対照的に、とてもあたたかかった。
なんだか気恥ずかしくて顔を見られなくなって、つい空へと視線を投げる。
飽きもせず上ばかり見ていた恋人の気持ちがわかったような気がして、ごめんねの気持ちを込めて、骨ばった手を握り返した。
fin
◎あとがき
お読みいただき、ありがとうございました。
参加しているコミュニティ「テニプリ布教委員会」より、お題「月が欲しいと泣く子供」をテーマに書かせていただきました。
そのままタイトルにできそうなお話を書ければよかったのですが、筆力が足りずごめんなさい笑
テニプリで月といえば、ムーンサルトのがっくんか、ムーンボレーの大石か、名前そのものな越智先輩あたりが選択肢としてあったのですが、今回はがっくんに。
他の二人はまたいつか…!
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。