第49章 月に願いを〔向日岳人〕
空への志向をどうにか自分に振り向けたいと思っているくせに、誕生日には岳人が喜びそうだから、なんて羽根モチーフのアクセサリーをプレゼントしてしまうのだから、私も大概ベタ惚れだ。
岳人の家と私の家との間にある、小さな公園に差しかかった。
互いの気が向いたときは、ここのベンチでジュースを飲みながら、他愛もない話をする。
さっきの満月のくだりを聞く限り、今日は岳人の機嫌がよさそうだし、久しぶりに誘ってみようかな、なんて思ったとき、子どもの泣き声が耳に飛び込んできた。
「やーだー! 取って、取ってよー!」
ベンチのそばの砂場のあたりで、小さな男の子が癇癪を起こしたように手足をばたつかせている。
スーパーの買い物袋をぶら下げて、まだ生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこ紐で抱えたお母さんらしき人は、困った顔でため息を吐いた。
「取れないの。お月さまはね、すっごく高いところにあって、ママには届かないの」
「やだ、取ってくんなきゃやだー!」
「ごめんね、取れないんだよ。ほら、帰ろう?」
「やーだー!」
手さえ空いていれば、本当は抱きかかえて無理やりにでも帰りたいのだろうというのが見て取れる。
ママ業も大変だなあ、と同情していたら、隣で岳人が急に立ち止まって、テニスバッグのポケットをごそごそと漁り始めた。
「なに、どうしたの?」
岳人は私の質問には答えずに、ボールを取り出してスラックスのポケットにねじ込むと「これ、頼むわ」とバッグを私に押しつけて走り出した。
夕方まで仕事をこなした身体には、託されたラケットバッグは鉛のように重たかった。
少しふらつきながら、よくこんなものを背負ったまま練習帰りの身体で飛び跳ねられるなと、そのたくましさを垣間見たようでどきりとする。