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短編集【庭球】

第48章 魔法の杖と絶対値〔観月はじめ〕


低く淡々とした台詞のあと、右手が解放された。
信じられない思いでゆっくり自分の方へ引き戻して、テーブルの下に潜り込ませると、先ほどの感触が蘇ってくる。
少し冷たい大きな手は、初めて触れたのに初めてとは思えないような、不思議な感覚だった。
まるでもとから触れていたんじゃないかというくらいにおさまりがよかったのだ。
離れてしまった今の方が不自然な気さえして、そっと拳を握った。


「さ、勉強を続けましょう。試験範囲が終わるまであと少しですから」


何事もなかったかのように、観月は普段通りの口調に戻って、長い指で教科書のページを繰った。
タイトルは「場合分けが必要な計算問題」。


「…ねえ、観月」
「なんです?」
「場合分け、だよ」
「ええ、そうですけど」
「だから、場合分け。私の場合は、観月は信用に足りるの。っていうか、観月じゃなきゃ信用できない」


教科書から顔を上げた観月と、視線が絡む。
心臓が今さら、どきどきと早鐘を打っている。
観月はぱちりと一度瞬きをして、それから「んふ」と笑って、言った。


「よくできました」


fin





◎あとがき

お読みいただき、ありがとうございました。
初観月さん、いかがでしたか。

連載当時不二くん熱がすごいことになっていたため、「不二くんの敵=私の敵」という極めて頭のおかしな構図が十ウン年間もずっと続いておりまして。
今回リクエストをいただいて、ようやくその脳内陣容を変えることができました笑
ご要望の観月さんとは程遠いかもしれませんが(すみません)、楽しんで書かせていただきました。
素敵なリクエスト、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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