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短編集【庭球】

第48章 魔法の杖と絶対値〔観月はじめ〕


ああ、私は何を期待していたのだろう。
手のひらの中のスマホをぎゅっと握りしめる。
観月が私の恋愛事情なんてどうでもいいと思っていることくらい、これが無謀な恋だということくらい、わかりきっていたのに。

だったらせめて、助言を求めようか。
いつも正しい答えをくれる観月なら、この気持ちにどう対処すべきか教えてくれるかもしれない。


「ねえ、どうしたらいいと思う?」
「どうって、それは僕に聞くことじゃないでしょう。それとも、僕がやめておけと言ったら本当に断るんですか?」
「うーん…そうする」
「は? バカですか、あなた」


素っ頓狂な声とともに向けられたのは、軽蔑の色を多分に含んだ瞳。
最初こそずいぶん落ち込んだものだったけれど、彼が比較的仲のいい柳沢や赤澤にも同じ目をしていることを知ってからは、さらりと流す余裕ができてきた。
いいか悪いかは別として。


「私がバカなのは観月が一番知ってるくせに」
「まあ、そうですけれど」
「でさ、どう思う?」


もう一度聞くと、珍しく観月は少し口ごもった。
いつも明快に、むしろやりすぎなくらいにはっきりとした解を提示してくれるのに。


「…僕の意見ですからね、あくまでも」
「ああ、それは大丈夫。観月はいつも絶対正しいから」
「え?」
「だって観月の言うこと聞いてて、失敗したことないもん。テニス部もそうでしょう? 赤澤も柳沢も言ってたよ」
「そう、ですか…」


そう言った観月は、ふ、と薄く笑って、「でも、僕がいつも正しいとは限りませんよ」と続けた。
そんなことないよ、と否定しようとした瞬間、テーブルの上に中途半端に置いていた右手を取られる。
状況が飲み込めずにいる私を尻目に、私の右手はみるみる観月のもとに引き寄せられて。
手の甲に、観月の唇が触れた。


「へ…?」
「よかったですね、手で済んだのは相手が僕だったからですよ」
「………」
「男をあまり信用しすぎるものじゃない」
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