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短編集【庭球】

第48章 魔法の杖と絶対値〔観月はじめ〕


この時間がもっと続けばいいのにという願いも虚しく、大きいように見えたティーポットはあっという間に空になってしまった。
ごちそうさまでした、と手を合わせて勉強を再開しようとペンを持ったところで、テーブルに置いてあったスマホが震える。
ガタガタと不躾な音を立てたそれに目をやると、去年まで同じクラスだった男子からメッセージが届いたところだった。
表示されていたのは「あの話、考えてくれた?」という一言。


「……見えちゃった? 今の」
「ええ、見るつもりはなかったんですが…すみません」
「そ、っか」


なんとなく観月には見られたくなくて、とっさにスマホを手元に持ってきていたのだけれど、遅かったらしい。
そのまま電源ボタンを押して、未読スルーを選択する。



サッカー部の彼から告白されたのは、定期試験が終わったその日のことだった。

「林のこと、ずっと好きだった」と言ってくれた彼とは、クラスが違う今では本当に時折話す程度の関係だったから、まさかそんなことを言われるだなんて思ってもみなかった。
「付き合ってください」という言葉と彼のまっすぐな視線に、驚きと困惑と、こんな私のことを好きだと言ってくれる人がいるのだという少しの喜びとがないまぜになって、テストでエネルギーを使い切った頭が完全にパンクしてしまって。
「ちょっと考えさせて」という、なんとも煮え切らない返事をしてしまったのだ。

彼の気持ちを受け止めることも、かといって受け流すこともできなくて、それからの数日間は正直、考えることを放棄してきたのが現状。
何の音沙汰もないことに彼がしびれを切らしたのだろうことは、メッセージの文面からも明らかだった。


「……って話」
「物好きな人もいるものですね。蓼食う虫もなんとやら、ですか」


観月はさして興味もなさそうに、髪に手をやりながらそう言った。
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