第47章 アクアブルーで抱きしめてII〔木手永四郎〕*
テニス部は新垣くんと不知火くんの新体制になって、あの日以降はまた厳しい練習を始めたようだった。
引退した五人は練習に軽く顔を出しつつ店に寄って、木手くんに怒られながら宿題を片づけたり、何をするでもなく話したりして過ごしていた。
九月に入ると新学期が始まって、おそらくそれと同時にテストと受験戦争も始まったのだろう。
それまでのように毎日顔を見せにくることはなくなった。
木手くんとはあれからほぼ毎日、私の仕事が終わったあとに会っていた。
それは海だったり、私の部屋だったりしたけれど、顔を突きあわせるたびに、身体を重ねるごとに気持ちが膨らんでいった──怖いくらいに。
最初は人恋しさや淋しさから彼に抱かれていたのに、いつからか彼のことが愛しいと感じている自分に気がついて、そのときにはもう止められなかった。
けれど、彼の方は負けた悔しさや虚しさを私との行為にぶつけているだけなのかもしれないと思うと、これ以上関係を続けるのは得策ではない気がした。
深入りしてしまう前に引かなければまた傷つくという危機感もあったし、もうあんなに傷つくのは嫌だった。
ただ、何も言わずにいなくなるのはなんとなく気が引けて。
オーナーと店を出る前、彼の携帯に「東京に帰ります。いろいろありがとう」とだけメッセージを送っておいた。
予定の便まではまだ時間があった。
お土産を物色したけれど、特にお土産を渡したい人がいないことに気がついて、自分が欲しいものを少し買って荷物を預けたあとは、展望デッキから飛行機を眺めていた。
滑走路の先に、海が見えた。
抜けるような、真っ青な、海。
淋しさや悲しみを水に溶かしたら、きっとこんな色なんだろうと思った。
涙は世界で一番小さな海だと聞いたことがある。
あの日見た木手くんの涙も、あの海と同じくらいに澄んでいた。
一夏の恋、それでいいじゃないか。
きっと彼のことも、綺麗な思い出になる。