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短編集【庭球】

第47章 アクアブルーで抱きしめてII〔木手永四郎〕*


「やだもー、かっこわるー!」


恥ずかしくて、自分で自分に突っ込みながら立ち上がる。
平古場くんは半分は自分のせいだというのに他人事のようにげらげら笑っていたし、知念くんに至っては「なぜこんなところで転ぶのか」とでも言いたげな訝しげな視線を送ってきたから「悪かったわね、運動が苦手で」という視線を送り返してやった。

半分は水の中だったから転んでも全然痛くはなかったけれど、生ぬるい海水を吸った服がずしりと重い。
髪からも服からもぽたぽたと雫が垂れて、参ったなと思っていたら、頭にふわりとした感触が落ちてきて、視界がなくなった。


「白いTシャツはいただけませんね」


暗がりの向こうから、木手くんの声。
どうやらタオルを被せられたようだと判断して顔を出す。
木手くんはもうこちらを向いてはいなかったけれど、浅黒く日に灼けた耳が少し赤くなっていた。
どういう意味だろうと思いながら、とりあえず「ありがとう」と言って何気なく視線を落とすと、下着の水色がTシャツの上からでもばっちり透けていて。
ああ、今の台詞はそういう意味か。

「砂浜にいれば小一時間で乾きますよ」と言い置いた彼に、もう一度お礼を言った。
大きくてふかふかのスポーツタオルを、ありがたく拝借する。
肩からタオルを羽織って透けた下着を隠して、海から上がった。
恥ずかしいと思う一方で、大人びて見える彼も高校生なのだと、どこか微笑ましかった。


* *


またおいで、と言ってくれたオーナーと、空港の駐車場で別れた。



九月に入って客足が少し落ち着いた頃、私は契約満了を迎えた。
元彼のことを忘れるという当初の目的はほぼ達成されたと思ったし、いいタイミングだと思った。
まだ沖縄にいたい気持ちがないわけではなかったけれど、ここで契約延長してしまったら、東京に戻れなくなってしまうような気がして、帰ることに決めた。
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