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短編集【庭球】

第47章 アクアブルーで抱きしめてII〔木手永四郎〕*


「海入んの久しぶりやっし!」
「え、入るの? もう六時なのに?」
「あいー? こっちじゃそれが普通だばあよ」
「嘘、そうなんだ! なら水着持ってこないと…」
「沖縄の人間は水着なんか着ませんよ、紫外線が強すぎて日焼けが痛いですからね。昼間からビキニなんて着て喜んでるのはみんな内地の人です」


それまであまり会話に入ってこなかった木手くんが、私の何気ない一言にそう返してきた。
一昨日の彼とのあれやこれやが蘇ってきて、頬に熱が集まるのがわかった。
「そ、っか」と早々に切り上げて、記憶を思い出すまいと自分自身に言い聞かせた。



助言の通り、着ていたTシャツとショートパンツのまま砂浜に出た。
最初は子どもの水遊び程度だったのが、みんなどこかに戦う本能のようなものがあるのか、だんだん本気モードになってくる。

慧くんは身体に似合わず機敏だし、知念くんはどこからか拾ってきたらしいナマコを、完全に気配を消してみんなの後ろから頭や肩の上に置くという恐怖の攻撃をしかけているし。
砂浜や浅瀬には慣れているのか、それとも単に運動神経がいいのか、足場が悪くてもみんな驚くほどフットワークが軽くて、正直見ているだけでも楽しかったけれど、それに混ざるのはもっと楽しくて。
こんなに笑ったのはいつぶりだっけ、なんて思った。


「余所見してたらやられるんばあよ」
「ひっ?!」


少し遠くで甲斐くんとやりあっている木手くんが楽しそうに笑っていて、ちゃんと笑えるようになってよかった、とぼんやり考えていたら、いつの間にか平古場くんが隣にいて、耳元でぼそりとそう言った。
まさか見られているだなんて思わなかった私は派手に驚いてしまって、とっさに彼から離れようとしたのだけれど、膝まで海に浸かっていたことをすっかり失念していて、足がもつれて。
気がついたときには水しぶきを上げて、それはそれは派手に転んでいた。
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