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短編集【庭球】

第47章 アクアブルーで抱きしめてII〔木手永四郎〕*


違う、私のせいじゃない、木手くんが大きくなったのに。
口を開いたら最後、どんな嬌声が飛び出してくるかわからない恐怖の方が優って、必死に首を横に振ったけれど、彼は「違わない、でしょう」と低く鋭く私をなじった。
はだけたシャツの隙間から、汗ばんだ彼の体温と苦しそうに早めた息遣いとがダイレクトに伝わってきて、快感が加速する。

海に反射した月明かりが、ぼんやり滲み始めた。
ああ、だめ、もう限界。
寄せ来る波に身を任せてしまおうと瞳を閉じたとき、とびきり甘い言葉が落ちてきた──気がした。


「渚さんを平気で傷つける男なんて忘れて、俺にすればいい」


ありがとう、冗談でも嬉しい。
薄れゆく意識の中で、そんなことを思った。


* *


二日後。
それまでの癖が抜けきらないのか、夕方になってから、テニス部の面々が少し気恥ずかしそうに店に顔を出しにきた。
大会前に彼らを見ていたときには何も感じなかったけれど、みんな表情がどこか穏やかで。
大変な思いで戦ってきたのだろうと感慨深くなって、ありったけの想いを込めて「お疲れさま」と出迎えた。

それまでの無気力が嘘のように喜んで彼らを歓迎したオーナーを見て、私も心底安堵した。
改めて「応援ありがとうございました」と礼儀正しく頭を下げた彼らが誇らしかったのか、オーナーは目尻に涙を浮かべながら「にふぇーでーびる、にふぇーでーびる」と繰り返していた。

いつもより長めのお茶会が終わると、オーナーは「今日くらい遊んでいけばいいさー」と満面の笑みで砂浜を指差した。
「渚チャンも借りていいかやー?」と無邪気に尋ねた甲斐くんに、オーナーは「いっておいで」と快諾してくれた。
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