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短編集【庭球】

第46章 アクアブルーで抱きしめてI〔木手永四郎〕


空になった缶をゴミ袋に放って、ビーチサンダルが砂に埋まるのを耐えながら、店へ向かった。
店のドアを押し開けた瞬間、ふわりとした感覚に襲われる。
え、やだ、私酔ってるの?
膝がかくんと折れて、目の前がぐらりと揺れ始めたとき、視界の端に小さく木手くんが見えた。


「ッ! …危なかった、大丈夫ですか」
「ふ、え…ご、ごめん…」


私は転ぶ直前に、木手くんに抱きとめられていた。

ぱたん、と小さな音の先に視線をめぐらせると、店の一番奥にあるトイレの扉が閉まる音だった。
私が転びそうになったとき、確かに木手くんはあの扉から出てきたところだったのだけれど。
身体に回された腕は確かに木手くんのもので、まさかこんなに短い時間でここまで走ってきてくれたということだろうか。
それとも私が単に酔っ払っていて、幻覚に近いものが見えているだけだろうか。


「…木手くん、瞬間移動? 私そんなに酔ってるのかな…」
「瞬間移動ではなくて縮地ですよ。まあ、酔っ払ってはいるでしょうが…顔、真っ赤ですから」


うそ、と頬に触れると確かに火照っていて。
これはお酒のせい?
男の人の身体に久しぶりに触れたから?
それとも、木手くんだから──?

鍛え抜かれた身体は、歳下の男の子というより、もう一人の男の人のそれだった。
今になって、アルコールが急に回ったような気がした。


「ごめんね、ありがとう」と言って彼から離れた後も、走り出した心臓はしばらく鳴り止まなかった。






◎あとがき

お読みいただき、ありがとうございました。
そして本当にごめんなさい、ぜんぜん終わってません…ばっちり続きます。
執筆しながらあんまり長くなってしまった&更新期間が空きすぎてしまったので、個人的にあまりやりたくはなかったのですが、途中まで公開することにしました。

久々の木手くんですが、正直この章ではあんまり活躍していない…木手ファンの方、ごめんなさい。
次章では大活躍してくれることでしょう(たぶん…)

リアルがなかなかに忙しく、次も期間が空いてしまうかもしれませんが、見限らずにおつき合いいただけたら嬉しいです。
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