• テキストサイズ

短編集【庭球】

第46章 アクアブルーで抱きしめてI〔木手永四郎〕


* *


八月中旬。
インターハイの開幕を明後日に控えて、明日いよいよ比嘉テニス部は会場の山形県へ出発する。
今日はオーナー主催の壮行会だ。
慧くんと知念くんたっての希望で、砂浜でバーベキューをすることになった。


「全国大会、ちばりよー!」


オーナーがそう音頭を取ると、みんなスポーツドリンクの入った紙コップを掲げて「かりーさびらー!」と応じた。
案の定ついていけなかった私に、木手くんは「乾杯、という意味ですよ」と小声で教えてくれた。


午前と午後のツアーの合間、オーナーが冷蔵庫に収まりきらないくらい大量の食材を買い込んできたのを見たときは何事かと思ったけれど、さすがスポーツをしている高校生だ。
山盛り、いやメガ盛りだった肉と野菜、そして平古場くんが海で取ってきたと言っていた魚介類が、飛ぶように消えていく。
絶対消費しきれるはずがないと思っていたのに。

トング片手に焼肉奉行をしていた私の手際がもどかしかったのか、慧くんはトングを要求してきた。
はい、と手渡すと箸を置いて、なんとそのままトングを使って食べ始める。
呆れるとか感心するのを通り越して、もう見ていて清々しいくらいだ。


手持ち無沙汰になった私は、邪魔にならないようにちょいちょいと焼き網の上のものをつまみながら、オーナーの勧めてくれたビールと泡盛を飲んだ。
特にご当地ビールのオリオンビールは、軽くていくらでも飲めそうだった。


二本目のビール缶を飲み干したとき、あーっ、とコンロのそばで大きな声がした。
声の主を見遣ると甲斐くんで、どうやら焼き網の隙間から割り箸を炭の中に落としてしまったらしかった。
我先にと争うように食べていた彼にとって、このハンデはさぞ痛いものなのだろう、しまった、と顔に書いてある。

「店から取ってくるよ、一膳でいい?」と声をかけると、甲斐くんは「ごめんちゃい」とこうべを垂れた。
/ 538ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp